時事その他についての考察

「JIN―仁―」について皆さんが語っているので乗っかっちゃいました

TBSのドラマ「JIN―仁―」の総集編の再放送が話題になったようです。感動への導き方があまりにもあざといのではないか、とも思わないでもないですが、そう思いながらもしっかりやられてしまいました。降参です。ご覧になっておられない方にはわからない話ですが最後の咲さんの手紙はちょっと参っちゃいました。観たのは初めてでもないのに。というよりも、この手紙を頂点とする主人公が現代に戻ってからの解決編とでもいうエピソードをもう一度観たくてまた観ていたようなものです。同じ時間にNHKで「いいね!光源氏くん」もやっていたので、伊藤沙莉フリークといては中々忙しい時間でした。

この、橘咲さんの手紙が あれだけ泣かせるのは、長い、長いタメがあったからでしょう。そもそも橘咲という人は謙虚で気立てがよくて、聡明にしてしかもとても強い芯を持っている、という、理想の女性像であり、普通ならば少なくとも女性からは“そんな女なんているわけないじゃん”といわれるところを、綾瀬はるかさんの存在と演技がそれを成立させてしまったわけで、つまりは視聴者は皆、咲さんが大好きなのです。そうして、視聴者も出演者もみーーんな、咲さんが主人公である南方仁を好きなことも知っているのです。でも実は、咲さんはただの一度も南方仁のことを、好きだ、ということは本人には勿論、誰にもいっていないのです。その秘めた(みんな知っているので秘まってないですが)言葉が最後に、しかも、絶対にそれが叶えられない状況で語られるので日本中の人の水分が数パーセント、減ってしまうことになってしまったのでしょう。その感動は、咲さんは江戸から明治の時代の人なのに、その文字が楷書なのはおかしい、などというつっこみは自らしなかったことにする位です。いや、しかし、主要登場人物である、野風さんの出産があわや死産か、と思われたときにその子の両足首を片手で持ち、空いた手で子の背中を叩きながら「泣きなさい!」と叱りつけるように訴えかけるシーンは橘咲という人物のスケールの大きさを表現した圧巻の場面でした。

その、演技の技術としては経験からいって諸先輩方々に若干劣るかもしれませんが、その年代でしか表現できないひたむきさや透明感でそのハンディを克服して余りある綾瀬はるかさん、南方仁という役柄にこれ以外にはない、というような生命感を与えた主役の大沢たかおさん、多くの役者さんが演じた坂本龍馬という歴史上の大スターに挑戦して、これが決定版なのではないのか、と思わせるくらいの躍動感でもって 私たちを納得させた内野聖陽さんなど、いい役者さんたちがいい演技をしまくっているなかで、本当は意味のないことだし、個人の好みやその日の気分で変わってしまうものですが、あえて、あえて一番素晴らしかった人を選ぶとしたら、わたしは中谷美紀さんを選びたいです。一番最近見た場面なのですぐ思いだせるのは、主人公が現代に戻ってから友永未来ではない、橘未来として、つまりは南方仁とは会ったことのない未来として仁と初めて相対したとき、相手から何かを感じたときの微妙な表情です。これは初めは橘未来として南方仁に惹かれた瞬間の表情かと思ったのですが、その後、彼女にとっては曾祖母にあたる咲さんの残した手紙を渡したところからみると、南方仁という男がその手紙の相手ではないか、と思いついた表情とも取れますし、まあ、とにかくちょっと凄い演技です。

しかし、本当は、決定的なのは花魁・野風を演じているときの演技でしょう。花魁というのは、見たことはありませんが、すべての動作、体の使い方から手の動かし方、表情から発声にいたるまでが魅力的であるように計算されつくした、多分それは歌舞伎の女形 がやっているのとおんなじ、つまりは演技であるわけです。但し、それを舞台でやるのと、生身の人間の目の前でやる違いはありますが。

この所作の美しさ、魅力というのは特別なもので、(そう思わせるようにしているわけです。また、そう思われなければ所作が存在する意味がないわけです)ですからMVPに中谷さんを選んでしまうのは仕方のないことです。

ところで、もしも花魁・野風の立ち居振舞に参ってしまった方が居られれば 、かなり昔の作品ですが(初回は1997年だそうです)渡辺謙主演の時代劇「御家人斬九郎」をお勧めします。このなかで辰巳芸者を演じた若村麻由美さんが、それはもう、粋で鯔背なのです。 若村さんは日本舞踊の心得があるとかで、動きがいちいち決まっています。 他にも主人公の母を演じられているのが岸田今日子さんで、これが無茶苦茶可愛らしくて渡辺謙さんとのやり取りは大変に楽しめます。時代も同じ幕末で最後は明治に入って終わるのでほとんど重なりますね。こういうのって、南方仁が頑張っているとき、松平残九郎家正は置屋でごろごろしていたのか、などとバルザック的なことを勝手に思ったりします。

ところで、所作については、近代とそれ以前の違いと絡めて今、書いている最中です。上手くまとまるといいのですが。

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