わたしが貫地谷さんを初めて観たのは貫地谷さんが2004年の映画「スウィングガールズ」に出演されたときであるはずです。あるはず、というのは、その演じられた役柄はよく覚えていたのですが、演じた役者さん、つまり貫地谷さんのことは(失礼ながら)まったく、記憶になかったからです。
何年か経ってから、NHKの朝ドラ「ちりとてちん」などでその存在を知ってから、テレビ放映された「スウィングガールズ」を改めて観たら貫地谷さんが、それも主要3キャストの一人として出られていたので、おう、そうだったのか。と思った次第です。(他の主要キャストである、上野樹里さんと本仮屋ユイカさんは役柄と演じた役者さんともども、ちゃんと覚えていたのですが)
推測になってしまいますが、これはわたしだけに起きたことではない気がします。そして、そのことは“貫地谷しほり”という役者さんを象徴していることなのではないか、と思うのです。
念のために申しますが、これは全く批判ではありません。役柄だけ記憶させて、役者の気配を感じさせないというのは、ちょっと凄いことだと思います。大袈裟にいうと、役者としての理想形ともいえるくらいです。
売れっ子の役者さんですからそのあとも様々なドラマやナレーションをされているのを見聞きします。ドラマではどちらかというと、準ヒロインや脇を固められる役柄が多いようです。それをご本人やその周りの方々がどう捉えておられるかは知りません。本来であればもっと主役を張ったっておかしくはないはずだ、と思われていたって少しも変ではありません。しかし、貫地谷さんの希少なところは、実は、そこにあるのではないのか、と思うのです。
貫地谷さんと同年代で主役を張られている女優さんは結構、おられます。また、もう少し年齢を重ねられた方で脇役といて重要な働きをされる女優さんもいらっしゃいます。しかしながら、あの年代で、あのくらい美しさがあって、確かな実力もあって、安定して脇を任せられる女優さんは皆無といっていいでしょう。
うまい脇役がおられるドラマは厚みが増す、とか、安定感がでる、などといいますが、それに加えて貴重な“華”まで添えることができるのです。しかも、その華は決して過剰なものではないので、主役の邪魔 をすることもないのです。だって、いわいる“主役を喰う”という言葉は誉め言葉とは限らないわけです。
貫地谷さんが二番手か三番手あたりに配置されたドラマがあると取りあえず一度は観てみようかな、と思うのはわたしだけではないと思います。
男性の俳優にも似ている方がおられます。佐々木蔵之介さんです。
速水もこみちさんがアンドロイドを演じられたドラマでやられた少しイカれた科学者、SFというには荒唐無稽に過ぎるような玉木宏さん、多部未華子さんなどが出演されていた「鹿男あおによし」での、玉木宏さんの先輩教師としてのいかにも謎めいた男の役、天海祐希さんが弁護士役をやられたドラマでの、天海さんに「ハンサムな“らくだ”みたいな顔して!」と決めつけられる同僚弁護士の役、NHKの朝ドラ「ひよっこ」での洋食屋のシェフの役、多彩な役柄を演じわけられる実に魅力的なサポート俳優さんです。こちらもご本人や周りの方々は主役をもっとやりたい、と思われているのかもしれませんが。