日本にはアメリカ本土に攻め込む能力も意思もなかった。
相手の国土に被害を与えずに降伏を勝ち取れる筈がない。それでも日本が戦争に踏み切った理由は日本の持っていた戦争のイメージが第一次世界大戦の前、普仏戦争、更に言えばナポレオン時代のそれで止まっていたからだろう。
第一次世界大戦以前、戦争は主に決戦で決まっていた。大きな回戦で双方が激突し、それに敗れて継戦能力を失ってしまえば降伏するしかなかった。
日本は真珠湾攻撃、それに続くミッドウェー海戦といった決戦で相手の海軍力を壊滅させ、それによって自国の勝利をもって戦争を終わらせられると計画していた。
しかしもしも日本がミッドウェーでアメリカに壊滅的な損害を与えていたとしても、それで戦争が終わったとは思えない。第一次世界大戦から全面的な戦争は総力戦と言われる、相手国の軍事力だけでなく、工業力、更には一般市民にまで大規模な攻撃を仕掛け、戦争継続の意思を失わせることを目的とする戦いに変わっていた。
つまり、日本がアメリカに勝つためにはアメリカ本土まで攻め込みあの広大な国土を占領しなければならなかった。
そして勿論日本にそんなことをする力はなかった。
即ち、日本には太平洋戦争に勝利する道はなかった。
いや、ミッドウェー以後も勝ち続くことができればアメリカ国民の厭戦気分が広まり、それが政府を動かして敗戦を認めさせることもできたのではないか、という疑問もあるかもしれない。しかし、日本にはミッドウェーを越えてアメリカに侵攻する能力はなかったのだから、アメリカとしては自分から攻撃をしない限りそれ以上の被害を受けることはなかった。
元々長期戦になれば初めから低かった日本の勝利の可能性は更に低くなる。言うまでもなくそれは彼我の工業力に圧倒的な差があったからだ。
だからこそ日本は短期決戦を志向したのでありしかしそれは初めからあり得ない話であった。
※それは真珠湾攻撃に宣戦布告が間に合わなかったことによるアメリカ国民の激昂が原因であり、その瑕疵が無ければ勝利の可能性はあった、という人がいると思う。
そうは思わない。日本では一般にそれが過剰に強調される。しかし仮に攻撃に宣戦布告が間に合ったとしてもルーズヴェルト政権は適当な言い分をつけて国民感情を煽っただろう。そしてそれは成功しただろう。
宣戦布告の遅れは単にその作業をよりやりやすくしたに過ぎない。
すなわち、日本必敗の理由は、日本の戦争概念が根本から間違っていたことにあるのであり、その他の理由は枝葉に過ぎない。